BAD & BAD【Ⅱ】
おそらく私を気遣って、泣くほど恐ろしかった出来事をあまり思い出させないように、続きを遮ってくれたんだろう。
朔はそれ以上、何も聞いてこなかった。
震えた背中を撫でる、汗で湿った手のひらがなぜかとても心地よくて、涙がボロボロこぼれ落ちた。
しばらくの間涙が止まらなくて、朔のシャツをびしょびしょに濡らしてしまった。
『……泣き止んだか?』
『……』
『幸珀?』
『……』
問いかけに返事がないことを心配し、私の顔を覗き見た。
『……寝てやがったのかよ』
ホッと息を吐く。
久し振りに大泣きして疲れたところに、激しさを増した頭痛が運悪く重なり、意識を手放してしまったのだ。
眠る私を、朔が仕方なさそうにおぶった。
『兄貴の奴、許さねぇ……!』
朔は私の赤くなった目元を横目に見つめながら、ボソッと憎しみを芽生えさせていた。
その熱い呟きは、私には届かなかった。