BAD & BAD【Ⅱ】
背中越しに感じる、おぞましい気配。
せっかく落ち着いたのに、また、戦慄する。
振り返った朔が、背後の奴に睨みを利かせた。
『兄貴……っ』
『朔と一緒だったんだね、幸珀』
善兄、と呼ぶ声すらまともに喉を通らなかった。
目の前にいるのは、私の理想のお兄ちゃんの、大好きな善兄だった。
今はもう、違う。
心臓が、金切り声を上げている。
さよなら、私の憧憬。
『さっきは、驚いたよ。あんな逃げ方があったなんて……』
善兄が、一歩また一歩、近づいてくる。
やだ。怖い。
『幸珀はかっこいいね』
『来るな、来るな、来るなっ!』
『僕の、愛しい幸珀。怖がらなくたっていいんだよ?』
『ひっ……!』
善兄の冷たい手が、私の頬に触れる。
触れられる距離まで、来てしまったのだ。