BAD & BAD【Ⅱ】




右手首だけでなく左手首にも、くっきり刻まれている鎖の痕に、お母さんの眼が丸くなる。



『これ……』


『あの、これは、その、』


『一体何があったの!?』



平静さを欠いて、再び強く尋ねられる。


じわじわと、涙が目の縁に溜まっていく。



お母さん、私ね。

すごくすごく怖かったの。


“あの日”よりもトラウマになるくらい、怖かった。




知らなかったんだ。自分より強い、得体の知れない人間に迫られることの恐怖を。


知ってしまったんだ。身動きの取りづらい状況に囚われる、あの過酷さを。




言わなくちゃいけないことがたくさんあるのに、言うべき言葉は脳内に並べられているのに、声が喉に詰まって届かない。



……ちっとも平常心に戻れないや。


冷静になれない私を察して、朔が一歩前に出て私の隣に立った。



『あの』


『あ、朔くん。ごめんなさいね、お礼も言わずに……』



お母さんは、ハッと我に返る。



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