BAD & BAD【Ⅱ】
ただ、近くで見守ってるだけ。
だって、私の手なんか必要ないから。
そうでしょ?桃太郎。
「今度はどうやっていじってやろうか」
「っ、」
「なあ、桃太郎。お前はどういじられたい?一応、希望を聞いてやるよ」
私が何も言わなくたって、桃太郎は独りで這い上がれる。
桃太郎の忠誠心は、一時の迷いを丸ごと飲み込み、トラウマをも超えていく。
ずっと握り締められていた桃太郎の拳が、少しずつ開かれていき、力の抜けた指先で左耳に付けている、凛とお揃いのピアスの表面に触れた。
おもむろに、桃太郎の瞼が、伏せられる。
「……やめろ」
「あ?」
「やめろっつったんだよ」
桃太郎の真っ直ぐな拒否が、狭い路地によく響いた。
静かに持ち上げられた瞼から、だんだんと桃太郎の鋭い瞳が姿を現した。
放たれた眼光の威圧感に、逆ギレ男は思わず尻込みする。
もう、桃太郎の心の中に、動揺はない。
憧れの気持ちを糧に、本当の意味で過去を吹っ切ったんだ。
子犬が進化した、とでも例えるべきか。