24歳、恋愛処女
佐伯さんのひとことに、コーヒーを飲んでいた松本課長に視線が集中する。

「僕は今日、メニュー開発に参加するけど?」

……松本課長の言葉に、佐伯さんが喜びまくってたのは云うまでもない。

 
松本課長が調理室に立つと、道行く女子社員が足を止める。
うちの調理室は一面がガラス張りになっているから、廊下から中が丸見え。
確かに、長身で黒縁眼鏡がよく似合う、松本課長がワイシャツの袖を捲り、黒エプロンでフライパンをふるってるのは絵になるだろう。

「どうして松本課長は結婚しないんだろ?
いや、結婚して欲しくないっていうのが本音だけど」

「佐伯さん、手が止まってますよ」

ニンニクを刻みながらぶつぶつ云ってる佐伯さんに苦笑い。

確かに佐伯さんが今朝云ってたことじゃないけど、松本課長はもてる。
それに、松本課長が結婚しないのは我が社の七不思議、とまで云われてる。
でも、松本課長が結婚しないのにはちゃんと理由があるのだ。
たぶん、それを知ってるのは社内で私ひとり。
そしてその理由は松本課長のプライバシーに関わることだし、松本課長自身もあかす気はないみたいだから黙ってる。

立食パーティメニューなので、ピンチョス料理に。
プチトマトとモッツァレラのカプレーゼから、パイ生地の代わりに餃子の皮を使ったキッシュ、ベーコンやドライトマトをふんだんに使ったケークサレ、などなど。
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