24歳、恋愛処女
「彩夏ちゃん、男と付き合ったことがないんだって。
キスだって処女だって、初めては俺が全部もらうの」

「理央!」

がたん、思わず立ち上がりかけた、荻原さんの座っている椅子が大きな音を立てた。
しん、ざわついていた店内は静まりかえり、皆がこちらに注目している。

「あ……。
失礼、しました」

荻原さんが座り直すと同時に、店内にざわめきが戻る。

「なにやってるの、兄さん」

小馬鹿にしたように笑い、ノンアルコールカクテルを口に運ぶ理央さんに、荻原さんは悔しそうに唇を噛んでいる。

「おまえ、本気なのか?
いつものように弄んで捨てるつもりじゃないだろうな」

「なに?
珍しく絡んでくるじゃん。
俺はいつだって本気だけど?」

ただじっと、俯いてふたりの会話を聞いていた。
テーブルの上、せっかくの料理が冷めていく。
本格石窯で焼いた、本場イタリアのコンクルーで賞を取ったこの店自慢のマルゲリータは、チーズが固まってまずそう。
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