アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 スズランはセィシェルの言う通りに大人しく表で待つ事にした。
 程なくしてセィシェルが店から出てくる。

「あれ? 何も買わなかったの?」

「あー、この店には必要な缶詰の種類と個数を注文してまとめて店に送って貰うんだ。流石に缶詰は重たいからな」

「そうなんだ」

「そ。んじゃあ次の店回るぞ!」

「次は何のお店?」

「次も注文だな。で、花屋で最後」

「お花屋さん! あ、フィオルさんとこの?」

「……ちっ、俺あの店苦手なんだよな」

「どうして?」

「行けばわかる…」

 セィシェルは氷専門店にて氷の注文を終えると、渋々と花屋に立ち寄った。
 こじんまりとした可愛らしい店構えの花屋。店先には花の鉢植えが色とりどりと競う様に並んでいる。店員と思しき女性が鉢植えに水を与えていたが、こちらに気づくと如雨露(じょうろ)を投げ出して駆け寄ってくる。

「セィシェルくん!!」

「げっ!」

「?」

 セィシェルが何故か嫌そうな声をだした。

「今日は買い出しの日でしょ? そろそろ来るかなーと思って待ってたの~!」

「はあ?」

 花屋の店員は抱き着く様に向かって来たのだが、セィシェルはそれを既の所で躱した。
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