アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 本当は警備員ではなくライアに助けられ、ここまで送ってもらった。だがあまりにも落胆しているセィシェルにそれを話すのははばかられ、正直には言えなかった。目を腫らす程に泣いたのも原因はライアにある。

「セィシェル…。わたし、わがまま言ってごめんなさい。もう街に行きたいなんて言わないから…」

 セィシェルは瞳を伏せ、スズランの主張を軽く流した。

「……今日は疲れただろ? 店は休んでいいぞ」

「え! わたしなら平気! だからお店のお手伝いはちゃんとやらせて…!」

「……なんで…っ…」

 そして聞こえるか程の小さな声で何かを言いかける。

「え?」

「……いや。だったら時間まではしっかり休んでろよ…」

「う、うん」

 セィシェルは気落ちした様子のまま、一旦自室へと入って行った。スズランも一旦自室へ戻り、開店の時間まで気持ちを落ち着かせた。


 *   *   *


「スズちゃん、最近なんだか元気がないねぇ!」

 常連客である八百屋の店主が気さくに話しかけてくる。

「え! そうですか?」

「うんうん。その憂いに満ちた表情…! さては、恋煩いだなぁ? 良かったらおじさんが相談に乗ってあげるよ? なぁんて…」
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