アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~

「ちがうの！　あんたは十分頑張ってるって。けどああいうお客はいちいち相手してたらキリがないもの」

「うん、でも皆に心配かけたくないから！　今のわたしにできる事を精一杯頑張らないと！　じゃあ、わたしあっちの注文(オーダー)取ってくるね」

　心配そうに見守るソニャを背に空元気を出すスズラン。今自分に出来る事をひたすらに頑張るしかないのだ。想いを閉じ込めて出てこない様、ひたすら前向きに……そう自分に言い聞かせる。
　
「……あんな顔して笑う子じゃあなかったのに」

　ソニャはそんなスズランの姿を見てやはり心配そうに呟いた。

　賑わう店内、スズランは懸命に働く。
　働くのは楽しい。時間が許す限りスズランは酒場(バル)を駆け回った。

「───スズランちゃん！」

　またもや客に足を止められた。しかしその艶のある声は〝彼女〟の物だろうと、スズランは即座に笑顔を貼り付けて振り向いた。

「エリィさん、こんばんは！」

「……こんばんは」

　ところが彼女の表情は何時もの自信に満ち溢れた物ではなかった。切なそうに眉を下げ落ち着きなく店内を見渡す。その様子でスズランには分かってしまった。
　彼女も、本気でライアに想いを寄せているのだと。