アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「いい香りじゃん」

「むうぅ……返してよ!」

「いーだろ? このまま俺が生けてやるよ。もう店に戻るぞ」

 セィシェルは花束(ブーケ)を持ったまま裏庭の方への歩いていく。

「もう、セィシェルのいじわる! ……あの、フィオルさんごめんなさい。そろそろお店に戻らないと。お花ありがとうございます」

「いや! こっちこそごめん……自分ならまた明日、配達で来るから…」

「はい! じゃあ、また明日!」

 スズランが微笑むとフィオルは少し瞳を逸らしうつむき加減で恥ずかしげに口を開いた。

「あの……っ君影草(きみかげそう)って言うんだあの花! オレの好きな花で、その……じゃあまた明日っ!」

 フィオルが勢いよく踵を返して走り去るのを見届けると裏口の戸口で待っていたセィシェルが小さくぼやく。

「ったく、油断も隙も無い…」

「え? 油断って?」

「何でもねぇし、ほら行くぞ」

「はぁい」

 不機嫌そうなセィシェルの後に付いて裏口から店の倉庫に降りて行く。

「これ。生けとくけど、スズ今日はどうする?」

 セィシェルが目の前で君影草の花束をこれ見よがしに見せてきたので、スズランも少しむっとしながら答えた。

「もちろんわたしも手伝う!」
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