アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 力強い抱擁。
 その裏にどんな想いが込められているかなど、この時のスズランにはやはり想像すら出来なかった。


「───おいコラ。スズから離れろ、ゾンビ女」

「セ、セィシェル…!」

 セィシェルの声にやっと腕の力を緩めたエリィ。漸く解放されるも心配でエリィを見つめた。

「ああ、貴女には番犬(ナイト)君もいるものね! 心強いわ。スズランちゃんの事ちゃんと守るのよ、セィシェル(、、、、、)君」

「っ…うるせぇ、そんな事分かってるって前にも言っただろ!」

「そうね、そうよね。……それじゃああたし、今日はもうお暇するわね」

「っ…エリィさん! あの、また来てくださいね!」

「もちろんよ! あたし、この店のお酒とお料理、とっても大好きなんだから。……じゃあ、さようなら」

 エリィは何時もと変わり無く美しい微笑みを浮かべ、ひらひらと手を振って店を後にした。

「一体何なんだ。相変わらず変な女だよな」

「だいじょうぶかな。今日のエリィさん、なんだか…」

 いつも通り、ではなかった。
 まるで何かを決心した様な雰囲気にも感じた。

「はっ! 平気だろ、また明日もふらっと来て大量に注文すんじゃあねぇの?」

「……うん」
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