アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 しかしスズランの心配は見事に的中した。この日を境に、やはりエリィも酒場(バル)へ姿を見せなくなってしまうのだった。

 と同時に、セィシェルの過保護さにますます磨きがかかる。未遂とはいえ、街の粗暴者に暴行されかけたスズラン。セィシェルの目は更に鋭く、厳しくなった。

「おい、スズ。今日はもう上がれ!」

「え、でもまだ時間じゃ…」

「今日は酷い目にあったんだ、言う通りにしてくれ。でなきゃあ明日は一日休ませる」

 セィシェルの言い分は正しいのかもしれない。家族の一員が酷い目に合ったのなら無理をして欲しくないと思うのは当たり前だ。
 しかし明日一日休めと言われても困る。具合いが悪い訳でもないのに手持無沙汰になってしまう。
 それに、もしかしたらライアが来店するかもしれない。そう考えると休んでなどいられないのだ。

「わかった…。今日はもうあがるね」

「おう。ちゃんと飯食って風呂入って、早めに寝ろ」

「はぁい」

 とは言え。何時もよりも早めに全てが済み、もはや眠るだけとなったスズラン。しかしまだそんな気にはなれずベッドに腰を下ろした。
 上半身を枕へと倒し横になった部屋を見渡す。スズランはぼんやりと街の風景を思い出していた。
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