アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「……はいはい。じゃあ今日も注文(オーダー)取るの中心な、変なやつが居たらすぐ言えよ。俺が替わる」

「むぅ。そうやっていつまでも子供扱いしないで! わたしだって注文くらいちゃんと取れるんだから」

「どーだか……表出るならそのふくれっ面何とかしろよ?」

「わかってるもん!」

 意地悪なセィシェルの返答に腹を立てつつも倉庫から続くカウンターへと向かう。カウンターの表へ出たらそこは仕事場なのだ、気持ちを切り替えなくては。
 スズランは大きく静かに息を吸い込み、深呼吸をして長く息を吐いた。仕事柄、接客が主である。
 シュサイラスア大国、風樹(ふうじゅ)の都には多種多様な民族が集う。その都で一番の人気を誇る酒場(バル)ともなれば客層も様々だ。馴染みの客、異国の旅団、訓練後の酒宴を楽しむ厳つい警備隊の隊員達。名物の葡萄酒(ぶどうしゅ)を目当てに立ち寄る恋人同士や、店自慢の料理を楽しみに足を運ぶ親子連れなど顔ぶれは驚く程種々様々で毎日店を賑わせてくれる。
 各々が酒や料理と共に会話を盛り上げ、楽しそうに相好を崩す。
 喧騒に耳を傾け店内を見渡すと満足そうに頬を緩める。そんなスズランの笑顔は、例えるならば大輪の花が綻ぶ様に可憐で愛らしく、見る者の心を和らげるのだった。
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