アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「え、待って。寒くない様にって、まさかだけどスズランちゃんは日が落ちてからの冷え込む時間帯にこの森に来たの? 此処の警備は抜かりない筈だけど、君みたいな可愛い女の子が一人で来るなんて危ないぜ? それにここは王宮の敷地内だからあまり…」

「あ、の……一応、ここの警備の方から許可をいただいてはいます。でも、ジュリアンさんがここの警備に変わったんですか?」

 もしやと思い、ジュリアンに質問を返す。

「いやぁ、それはもう少し先の話ね。俺は今は民兵の護衛警備だし、今から訓練場に戻る所さ」

「そうなんですか…」

 変わった訳では無い、そう聞いてほっとする。

「あれ…。でもこの森に警備隊って配属されてたっけかな? スズランちゃんその警備員の名前とかわかるかな。良かったら渡しといてあげるよ、そのマント」

「あ……名前、わからないんです。警備隊の規則で教えられないそうで。顔も夜で薄暗くてちゃんとは……あ! でも背が高くて、優しくて…」

 ジュリアンが親切にも提案をしてくれたが、スズランはあの警備員の名も知らなければ顔さえもおぼろげだ。

「え? 警備隊にそんな規則無いけど? 現に俺はスズランちゃんに堂々と名乗ってるじゃん!」
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