アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「そういえば、そうですね! じゃあ、なんであの警備さんは名前…」

 規則だと言われ、てっきりそうなのだと信じていた。だがジュリアンは普通に名を名乗り、そんな規則は無いと言っている。だとするとあの警備員は何故名乗ってくれなかったのだろう……。
 首をかしげていると目の前のジュリアンがニヤリと意味深に口角をあげた。

「……ははーん。わかったぜ! スズランちゃん。その警備員さ、俺のよーく知った奴だと思う」

「え! ほんとう? もし良かったらその人の名前、わたしに教えてください」

「ん〜……名前ねぇ」

 ジュリアンは何故か微妙な方向を見つめながら更に口元を緩めた。

「名前は知ってるけど、あいつ恥ずかしがり屋だからなぁ……いや、でもスズランちゃんも知ってる奴だと思うよ?」

「え…! わたしも知ってる人? もしかして…」

 そう言われると思い当たる人物は一人しかいない。やはりあの警備員の正体は───。

「もちろん。この国に住む民なら皆知ってるさ、それに誰でも一度は見かけた事があるんじゃあないかな?」

「そんな、それじゃ心当たりないです……」

 この国に住む民なら皆知っている。そんな人物など限られている。
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