アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 もしあの警備員がそうなのだとしたら、この国の〝有名な人物〟と言う事になる。
 そうなるとライアではない事は確かだ。

「そう? じゃあさ、そのマント確実に本人に手渡してやるよ! ちょうど今からそいつと顔を合わせる予定だしね」

「……でも。じゃあ、その警備さんは警備隊の人じゃないって事でしょうか?」

「まぁ、そうなるかな。いやー、あいつも中々忙しい奴でさ、俺も次はいつ会えるかわからないんだ」

 ジュリアンから聞いた話を要約すると、かの警備員は警備員にあらず。尚且つこの国の民ならば誰もが知っている程有名であり、日々忙しく中々会えない人物。
 警備隊員であるジュリアンさえもなかなか会えないとなるとスズランがどんなにこの森に通っても簡単に会える訳がない。

「そう、なんですね。じゃあ、これ……お願いしてしまってもいいですか?」

 スズランは諦めた様に小さく肩を落として抱きしめていたマントをジュリアンに手渡した。

「もっちろん、まかせといて〜! 何なら伝言でも頼まれようか?」

「……そんな! 平気です。でも、わたし……もう一度、あの警備さんに会いたい……です」

 簡単に会えないと分かっても礼は自分の口から言いたい。
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