アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 人見知りなのか口下手なのか、口数が少なかった。それでも話をしていて楽しかったし、スズランの質問には真面目に答えてくれていた。本当はもう一度会って自分の手でマントを返したかったのだがやはり仕方がないのだろう。

「そっかぁ! そのまま伝えとくよ」

 しょんぼり眉を下げるスズランとは逆に、何故かジュリアンはとても溌剌な笑顔を浮かべた。

「ところでさぁスズランちゃん。あの男の事はどう思ってるの? 昨日は送ってもらったみたいだけど」

「あ、あの男って……えっと。ライアの事ですか?」

 急にライアの話題を振られ、慌てて答えるも妙な熱が顔に集中する。

「そうそう! 何だかずいぶんと親しげな仲に見えたからさ」

「なっ、親しげだなんてっ! 違います!! わたしは、その……からかわれてるだけで全然相手になんかされてないもの」

 親しげ……。ジュリアンの目にはそう映ったのだろうか。しかし実際は違う。恥ずかしくなって靴のつま先に視線を移した。

「……で、どう? 嫌い?」

 ───嫌いな筈がない。むしろその真逆なのだから。誰にも知られてはいけない秘めた想いだが、蔑ろにしたくはない。スズランはうつむいたまま小さく首を横に振った。
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