アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「ごめんごめん、大丈夫だよ。ちょっと足元をすくわれてね…」

「突然転ぶなんてびっくりです…!」

「ありがとう、大丈夫だよ」

 ジュリアンは何事もなかったかの様に立ち上がり、身なりを整える。

「さーて。そろそろ時間切れかな? 俺は訓練場に戻らないといけないし、スズランちゃんも今日はもう戻るだろ?」

「あ、はい。もう戻ります……マント。どうかよろしくお願いします! それとジュリアンさん、いろいろ教えてくれてありがとうございます!」

「どういたしまして。あ、俺の事はジュリでいいぜ! またな、スズランちゃん」

 ひらひらと手を振るジュリアン。スズランは託す思いで頭を下げ、午後一番の鐘がなる前に酒場(バル)へと戻った。



 *  *  *



「───ねえ、ソニャちゃん。この国の民だったら誰でも知ってるくらい有名な人ってどんな人かなぁ? しかもいそがしくてなかなか予定が合わないような…」

「えー? 何それ、なぞなぞ?」

「えっと…、そうじゃなくって。みんな一度は見た事があるくらい有名な人? よくわからないんだけど、そんな人いるかなぁ?」

「うーん。まあ、いるって言えばいるけど?」

「え! どんな人?」
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