アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「例えば……ほら、この国の国王様とか! うちの国王様ってば何かといったらお祭りを開くじゃあない。だから誰でも一度くらいは見た事あるでしょう?」

「う、うん…!」

 スズランは過日行われた王女と王子の帰国の際に開かれた祝祭(フェスト)を思い出す。その時、表の通りを儀装馬車で行進する国王陛下御一行を間近で目撃したのだ。

「それにしてもアタシ国王様みたいな優しい目元の男性にすごくよわいんだよね~」

「そうなの?」

「そう。垂れた目尻にあの綺麗な碧眼! もうめっちゃくちゃタイプ〜! でさ、イリア王女は国王様似なのにアーサ王子はあんまり似てないのが実に残念! あ、でも瞳の色は同じで綺麗な碧眼だったか、もう少し深い青だったかも」

「すごい、ソニャちゃん詳しいんだね」

「そりゃあね! この間の祝祭(フェスト)行進(ディスフィーレ)もばっちり観に行ったもの!! 手を振ったら爽やかな笑顔で振り返してくれるし眼福ものだって! スズは行かなかったの?」

「え、うん。行進(ディスフィーレ)なら少しだけ見えたよ」

 確かにあの華やかで煌びやかな馬車行進(ディスフィーレ)はまだ記憶に新しい。しかし興味を持って観たわけではない為か、国王陛下の顔は何となく思い出せても王女や王子の顔は全く浮かばなかった。
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