アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「また次の祝祭(フェスト)の時にでも見れるんじゃあない? スズも一緒に街に行く?」

「あ…。わたしはいい、かな。人が多いところって少し苦手だから…」

「そお? ……あ! そういや最近来なくなっちゃったあの彼!」

「それって……ラ、ライアのこと?」

「そうそう。彼って少しアーサ王子に似てない?」

 ソニャの言葉に心臓がどきりと跳ねた。

「え?!」

「そういやあの爽やかな笑顔とか結構似てるかも~! でもまあ、そんな要人がうちの酒場(バル)に来るわけないけどね。王子だなんてそれこそ何かと忙しいだろうし?」

 確かに一国の王子がわざわざ一般の民が経営する酒場(バル)に通う筈がない。
 しかし〝誰でも一度くらいは見た事がある、忙しい人物〟など最早その他に思い付かないスズラン。森の警備員の正体を探っているのにライアに行き着くのは何故なのか。ますます頭がこんがらがってしまう。

「───ったく、おまえらまたお喋りかよ?」

 怒る気力もないのか、呆れた顔のセィシェルが不意に厨房から顔を覗かせた。

「うげ。セィシェル! ……はあ、あんたも黙ってればまだ見れるんだけど。残念…」

「あ? 何の話だ、こら」
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