アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 ソニャとセィシェルの叫ぶ声が耳の奥で響いた。だがスズランの視界はそのまま暗転した。


 ────はやく……おきなきゃ。

 早く起きて、お店の準備をしないと……。

 早く目を覚ましてあの森に、行かないと……。

 もしかしたらお店に来てくれるかもしれない。
 もしかしたら森で会えるかもしれない。

 だから、早く。早く起きなきゃ。
 だってもう一度会いたいの。
 
〝あなた〟に───。

 額に乗せられたひやりとした手の感触でスズランは重い瞼を持ち上げた。

「ん……冷たい…」

「あ、起きた! ちょっと大丈夫?」

 天井を見渡すと、どうやら控え室隣の居間の様だ。スズランは長椅子(カウチ)に身を預けていた。心配げな顔のソニャが目に入る。

「……ソニャちゃん…?」

「もーー!! あんた寝不足でしょう? 貧血起こして急に倒れるなんて! セィシェルがいたから咄嗟に受け止めてくれたけどね、ほんと危ないんだから!」

「ごめんなさい……あれ、セィシェルは?」

「いいよ、スズが無事なら。んで、アイツは店。後でお礼言っときなね、あんなんでもスズを守るって気持ちは多分一番強いから…」

「うん…。えっとわたし、どのくらい寝てた?」
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