アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 とてつもなく長い時間眠っていた様な感覚もあれば、たった数分だった様な気もする。加えていつもの夢を見た時の様な気だるさもある。

「うん? ほんの数分だけども、今日はわたしもいるからスズはこのまま休んでいいぞ?」

「え! わたしもお店に…っあ」

 勢いよく長椅子(カウチ)から身を起こすも、やはりまだ頭がくらくらとした。

「ほら、全然ダメじゃあない……全く。スズがいない時にあの彼が来たらちゃんと教えてあげるから! それが心配なんでしょう?」

「そ、そんな事…!」

「あるでしょ」

 ソニャにだけは例の気持ちを見透かされている様で、スズランは素直にこくりと頷いた。

「ソニャちゃん、わたし……変なの。今になってあの人の事が気になって、眠れないの。あの人にとってわたしなんかただの酒場(バル)の店員で、まだまだ子供で…、相手になんてされないのわかってるのに………き、嫌われてるって思うと苦しくなって…っ…」

「……やっとちゃんと自覚した?」

「え?」

「だから、スズはあの彼の事が好きなんでしょう?」

 自覚はしていたが、この想いを認めてしまうのが怖かった。だから誰にも知られない様に心の奥に閉じ込めた筈なのに。
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