アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 もし仮にあの警備員の正体が、ジュリアンやソニャの言う通りの〝人物〟だとしたら……。
 いや、それでも直接会ってお礼を言いたかったのだ。朝方や深夜、昼間の酒場(バル)が開店する前の少しの時間など。様々な時間帯を狙い森に通ってもう何日目だろうか───。


「なあ、スズ。毎日ちゃんと食ってんのか? 最近ずっと顔色も良くねぇし、それに…」

「ちゃんと食べてるもん」

「ならいいけどよ。それ以上痩せたら俺も親父黙ってねえからな! 晩飯多めに作っとくから残さず食えよ?」

「はぁい…」

 とは言え最近食欲が無いのも本当だ。それでも真心のこもった食事は残さずゆっくりと時間をかけてとっていた。
 この日もいつも通り仕事をこなし、そろそろ切り上げるつもりでいたのだが店の出入口辺りが妙に騒がしい事に気づきそちらに目を向ける。
 すると一際目立つ赤茶色の癖毛をふわりと揺らし、手を振りながらにこやかに近づいて来る人物が目に入った。

「あ! やっほー。スズランちゃん!」

 明るい緑の瞳を輝かせる様にして気さくに話しかけてくるのは警備隊員のジュリアンだった。仕事帰りなのか隊服姿である。

「ジュリアンさん! 来てくれたんですね!」
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