アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 セィシェルはジュリアンの後ろにいた小柄な男にも会釈をした。そしてもう一度頭を下げると先に厨房へと戻って行った。
 すぐに二人を奥の席へと通す。

「ああ! 思い出しました。さっきの男性、この間街で例の奴らを捕まえた時に…! はぐれたお連れの方を探し回っていて…。そうか、二人ともこの酒場(バル)の方だったんですね」

 席に掛けながら小柄な男が呟く。

「あの時はエミリオが当番の日だったもんな。それと実際助けたのは俺じゃあないんだけどね。ね、スズランちゃん?」

 ジュリアンは椅子に掛けながらスズランに向かって思わせぶりに片目を閉じた。

「……先輩。すぐ女性にそういった態度を取るのはどうかと思いますよ?」

「エミリオは硬いな~! 大丈夫。スズランちゃんには手を出さないよ。俺だって恨まれたくないもん」

「はぁ、何か殿下に申し訳ないと言うか。今日だって僕たちだけで来ちゃって…」

「エミリオが気にする事じゃあないって」

 エミリオと呼ばれた同僚と目が合ったが、彼は小さく会釈をすると何故か顔を赤らめて視線をそらした。そして訝しげに眉を顰めたがジュリアンはあまり気にしていない様子だ。

「え、えっと……その。ライアはお元気ですか?」
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