アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「とりあえず少し寝ろ」

 セィシェルがぴしゃりと言い放つ。

「え、だってまだお仕事が…」

「この期に及んで仕事するとか言うなよ。無理はしない約束だろ! 俺だって親父から聞いてるぜ」

「でも…っ」

「それと俺、謝らないからな。本当の事言っただけだし、俺はお前が無理してるのを見たい訳じゃあねえから…」

「……」

 何も言い返せずに黙っているとセィシェルも黙ったまま部屋を出ていってしまった。
 別に無理なんてしていない。相変わらず眠りは浅いが、きちんと睡眠も食事も取っている。
 ただ。気分が沈んだままなだけ。
 迷子の子どもの様に置いていかれた気持ちがついてこないだけだ───。

 ──────

 ───


 酒場(バル)の賑わう喧騒で我に返り、目の前のセィシェルを見つめ返す。

「……わたし、そんなにひどい顔してる?」

「お、おう…。そんな顔してたらお客に迷惑…」

「じゃあもうやめる…」

 スズランの心の中に冷たい空気が広がっていく。

「は? やめるって何を…」

「わたし…っ! 別に無理なんてしてないもん! それでもまわりのみんなやお客さんに迷惑をかけるっていうなら、もうこのお仕事向いてないって事でしょ」
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