アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 保身的だと言われてしまえばそうなのだが、ユージーンやセィシェルとの関係を壊したくない。二人に迷惑を掛けたくない。そう思っている筈なのにもう何が正解なのかが分からない。

「何だよそれ。……ああ、そうかよ! じゃあ勝手にしろ。その代わり真面目に働く気が無いならもう一切店に顔を出すな。中途半端な気持ちで接客されても迷惑なだけだ!」

「…っ! もういい、セィシェルの馬鹿!!」

 正論すぎる言葉に打ちのめされた。それでも悔しさから幼稚な返ししか出来ない自分にますます嫌気がさした。
 どう足掻いても周りに迷惑を掛けてしまうのならばいっその事存在ごと消えてしまいたい。そう思いながらスズランは酒場(バル)の裏庭へと駆け上がった。
 雨で頭を冷やすつもりが、一時的に途切れた雨雲の小さな隙間からは星空が覗いていた、僅かな星灯に涙が煌めく。

「このくらいで泣かない…っ! もっと強くならなきゃ」

 しかし涙腺が壊れてしまったのか、拭いても拭いても涙が止まらない。

 不意に〝涙が止まるおまじない〟を思い出す。スズランの夢にに出てくる〝夢の人〟がかけてくれる特別なおまじない。しかしそれはスズランが勝手に生み出した夢の産物の筈。
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