アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~

遭逢と兆し



 心臓がとても早く脈を打つ。


 顔があつい。


 もしお酒を飲んだら、こんな風になるの?

 それとも────


 あまりにも早鐘を打つ心臓を抑える様に胸の前でぎゅうっと握り拳を作る。
 今までに体験した事のない感覚に戸惑いと不安が押し寄せた。しかしそれを塗り変える様に心を満たすのは、湧き水の如く湧き出る不思議な感情。

「っ…びっくりした! まさか警備の方がいるなんて───」

 スズランは今日起こった出来事を頭の中でもう一度なぞる。

 ────早朝。けたたましい破裂音を空に響かせ、祝砲(しゅくほう)が放たれた。
 それは昨日、王宮が出した御触れに関係した物であった。内容に関心がなく殆ど聞き流してしまったスズランだったが、この国 シュサイラスア大国にとっては一大事の出来事だった様だ。
 それもその筈。療養の為に長く国を留守にしていたイリア王女が帰国し、合わせて隣国に留学中のアーサ王子も帰国したのだと言う。以前から親馬鹿……いや、子煩悩と誉れ高い国王が国を上げて祝う様にと急遽祝祭(フェスト)を五日間設けたらしい。
 正直そこまで盛大に祝わなくても良いのでは無いかと密かに思ったスズランだったが、この国の民は違った。
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