アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 瞳からは次々と熱い涙が溢れ出すが、雨粒のおかげで誤魔化せる筈だ。しかし……。

「泣いてるのか? なんでそんな顔するんだよ、何が……お前にそんな顔をさせるの?」

「…っ」

 ライアはスズランの頬にそっと触れて涙をぬぐった。泣いている事を見透かされてしまい、急いで顔を背ける。

「やっぱり……俺のせい?」

 ライアの優しい声が耳に届く───。

「ち、違う…」

「本当に?」

「ちがうもん」

「嘘だ。なら顔見せて?」

 ライアの優しい手がスズランに触れる───。

「だめっ…見ないで! わたしに触らないでっ…お願い……」

 そんな風にされると勘違いしそうになってしまう。馬鹿な考えを追い出す為に全力でライアから瞳を逸らす。

「…っスズラン」

 それなのに。
 何故かライアの腕に抱きしめられていた。
 雨で濡れた身体が急激に火照ってゆく。

「…っ!」

「……なあ、違ってたらごめん。スズラン、もしかして妬いてる?」

 ライアはスズランを抱きしめたまま小さく耳元で囁いた。

「…っ」

 妬いている───?
 きっとそうだ、先程感じた強烈な胸の痛み。あれは恐らく嫉妬という感情なのだろう。
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