アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 そのどれもが見たことも無い淡い色のクリームで可愛らしく飾られ、食べるのが勿体無い位だった。ライアが淹れてくれた良い香りのお茶を口に含んだ瞬間一気に緊張や不安がほぐれてゆく。甘いお菓子とこのお茶には、疲れを癒す特別な効果でもあるのだろうか。
 なんだかんだで三つも完食してしまった。

「おいしかった……です。ごちそうさまです」

「ん。さあ、そろそろ眠らないと。明日は朝早に宿を出るから」

「うん。それでね、あの。わたしならもう平気だからライアがベッドを使ってね?」

 お腹が満たされ、少しだけ元気が湧いてきたスズランはライアにそう告げた。

「は? 何言ってるんだよ。俺は奥の部屋で寝るし、スズランがベッドを使えよ」

「でもこんなに広いベッドに一人で寝るなんて何だか落ち着かなくて。わたしの方が小さいんだし、長椅子(カウチ)で十分だよ」

 そもそもこの部屋の主はライアだ。
 部屋の主を差し置いて一人だけぬくぬくとベッドを使用する訳にはいかない。

「駄目だ。長椅子(カウチ)だと疲れが取れないだろ? それに毛布もないから風邪を引く。大人しくここで寝てくれって」

「だめ! それじゃあライアが風邪引いちゃう」

 そんな事を言われたら尚更だ。
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