アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 耳の奥に届くライアの少し掠れた甘い声。鍛えているのか見た目以上に力強い腕。その腕に抱きしめられている。嫌な訳では無い。毛布の中は互いの体温で上昇したのか暑いくらいだ。それもそのはず胸の鼓動は心臓が壊れてしまいそうな程早い。
 一体何が起きたのか考える隙も与えられないまま、指先まで痺れる様なときめきにスズランは身じろいだ。

(あったかい…、でもどうしよう。心臓の音が…)

 密着した身体。うるさい心臓……。そこへ、もうひとつの鼓動も重なっている事に気が付いた。

(もしかして、ライアも少しはドキドキしてるのかな…?)

「嫌だったらすぐに言えよ。俺は…」

「……ライアが、嫌じゃなければわたしは平気」

「なんだよそれ…」

 いくらお人好しと言えど、ライアこそ嫌いな相手と同じベッドで眠る事になったのだ。申し訳ないと思っているし、無理はして欲しくない。
 照明を落とした薄暗い部屋。妙な間の後、ライアがぽつりと話を振ってきた。

「───スズランは男とこうして眠るの、嫌じゃあないのか?」

「え? ……うん。懐かしい、かな」

「なっ、懐かしい!?」

「……昔よく、セィシェルにこうしてもらってたの」

「あ、あの野郎…っ」
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