アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「そんなに危険な仕事じゃあないよ。それにちゃんと仲間もいるから大丈夫だ…」

「そうなの? ……あ、仲間ってジュリアンさん?」

 仲間と聞いて一番に思い浮かんだのが、警備隊員のジュリアンだった。

「そう。ってスズラン、ジュリとは随分気が合うみたいだな…!」

「そんなこと! だけど、この間うちの店に来てくれたから少しお話とかも…」

「……ふーん」

 少し声の調子を下げてライアが相槌を打つ。
 何故かこれを最後にライアとの会話はぱたりと途切れてしまった。
 気落ちして歩いていると旧市街を抜けてペンディ地区の緩やかな坂道に差し掛かる。下りと上りとではまた違った印象的に思えるのは隣にライアがいるからだろうか。
 次第に霧が晴れ、古く歴史のある坂の小道が顕になる。
 先程から無言になってしまったライアの横顔を盗み見ながらひたすら坂道や階段を登っていく。

「……は、ぁっ」

 息を切らすと不意にライアがこちらに目を向けた。

「疲れた? ずっと登り坂だったもんな。それにまた雨が降ってきそうだ……」

「へい、きっ…。でもちょこっとだけ休憩してもいい?」

「そうだな。そこの大きい段差に座って少し休もう」
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