アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「ありがとう、ライア。も、平気だから……急がなくちゃ…」

「そんなに急ぐなよ。ちゃんと送るから」

「でもっ…! あ、雨!」

 頬に水滴がぽつりと落ちてきてその存在を示す。雨はすぐにでも本降りになりそうな勢いで空から降ってくる。

「やっぱりまた降ってきたか……ほら傘に入ろう、もともとスズランのだけどな。全く…。のんびりはしていられないって事か」

「ライア……」

「よし。急ごう!」

 急がなくてはいけないと分かっているが、この時間が少しでも長く続けばいいのに……。赤い傘の下でスズランはそう願ってしまった自分を恥じた。
 そんな葛藤をしている間に酒場(バル)へと到着してしまった。

「着いたな」

「うん…。もうここで大丈夫だよ。マスターとセィシェルにはちゃんと自分で謝るから…」

「いや、俺も一緒に行くよ。マスターに話があるんだ」

 無事に酒場(バル)に到着したが、ライアは繋いだ手を離さずに建物の裏手へと回り込んだ。
 ユージーンとは元から知り合いなのだろうか。やけに親しげな事も少し気になっていた。

「話って…? この間も…」

「なあ、スズラン…。もし、嫌じゃあなかったらなんだけど、しばらくの間。王宮に来ないか?」
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