アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 己の無力さに打ちのめされる。


 「ひでえ顔。……また眠れなかったのか?」

 着替えて居間に降りて行くとセィシェルが当たり前の様に長椅子(カウチ)に座っていた。ここで一晩過ごしたのだろうか、セィシェルこそ酷い隈が出来ている。

「……ちゃんと眠ったよ、でもすぐ目が覚めちゃって。セィシェルだってちゃんと寝た?」

「この位平気だ。スズを守るのが俺の役目なんだ。この位どうって事…」

「ありがとう、セィシェル。でもやっぱり無理はしないでね」

 自分はなんてずるい人間なのだろう。
 セィシェルの気持ちには応えない癖に、こうやって守って貰っている。未だ捨てきれない不毛な想いに縋っている癖に。

「……無理なもんか」

「っ…でもセィシェルは昨日だって夜遅くまで働いてるのに。早起きだって苦手でしょ? もしかして寝てないの…? 今からでも仮眠を…」

「平気だって言ってるだろ。ったく、もう目が冴えちまったから店の前掃除してくる」

「それ位わたしが…!」

「お前は外に出るな。先に朝飯食って待ってろ」

「……」

 あれから互いにずっとこんな調子だ。セィシェルはこれが自分の役目だと言って、朝も昼も夜も躍起になってスズランを守ろうとする。
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