アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「わかってる!!」

 セィシェルがスズランを抑えたまま後ずさる。

「やだ…! セィシェル、、だめ…! まだライアが!!」

「スズ駄目だ! 裂け目から離れろ…!」

「いやっ…はなして! ライア…っ」

 更に裂け目の大きさが小さくなっていく。このままではライアが出られなくなってしまう。スズランはもう一度ライアに向かって手を伸ばした。

(だめ……ライア…!  そんなの絶対だめ!!)

 じりじりと綴じてゆく裂け目。その黒い隙間から一瞬、ライアの微笑む顔が見えた。

「……セィシェル、スズランを頼む」

 しかしその言葉が耳に届いた瞬間、裂け目は完全に綴じられ、ライアと共に存在ごと消えた。

「…っ…」

 表通りは元から何事も無かった様に静まり返る。辺りを見渡すが先程まで嫌という程、その存在感を知らしめていた空間の裂け目は何処にも見当たらない。

「……ぃ…っ嫌ぁぁ!!」

 全身から力が抜け、その場にへたり込んだ。
 厚い雨雲の向こうで稲光が一閃する。次の瞬間、一面を叩きつける様に激しい雨が降ってきた。
 知らぬ間に地面で失神している男達を呆然と眺めていたセィシェルだが、雷鳴が空いっぱいに響き渡りはっとなる。
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