アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「!! っスズ、落ち着け! スズ!!」

 セィシェルの声がくぐもって聞こえる。息が苦しい。まるで空気がどろどろになったかの様に感じられ、上手く飲み込めない。

「嫌っ! 何で? どうしてライアが…」

「スズ! 頼むから落ち着けって!!」

 セィシェルは、強い雨に打たれたまま座り込んでいるスズランの両肩を引き寄せきつく抱きしめた。幼子をあやすと言うよりは何かを必死に鎮める様な手ぶりだ。
 スズランはただ一点を、空間の裂け目が消えた場所を見つめて呟いた。

「……どうしよぅ、セィシェル。わたしのせいで、、ライアが…」

「スズのせいじゃあねぇだろ…! あいつは…っお前を守ったんだ…」

「そんな、、だってわたし……」

 ライアの力に、役に立てると思ったのに。それどころかとんでもない事をしてしまったのだ。

「スズ、いいから早く中に…っ!」

「だめだよ…。わたし…っどうしたらいいの?」

 足に力が入らず立ち上がる事が出来ない。雨粒の一つ一つが鉛の様に重たく身体を打つ。

「スズがそうしてるなら、俺もここから動かねぇから…!」

「……」

 どのくらいそうしていただろう。より一層強くなる雨は時の感覚さえ鈍らせてしまう。
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