アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 実際、それ程刻は過ぎていない筈だが長い間そうしていた様な感覚に陥った。そしてその間、セィシェルは何も言わずスズランの頭に両腕を回したまま動かなかった。
 だが今、こうしていても何も解決は出来ない。分かっているからこそ自分には何が出来てどう行動したら良いのかを無心で考えていた。懸命に考えを巡らせても答えが出てこない。
 それでもやはり、気持ちは正直だった。

(ライアの所に、行かなきゃ…。何も出来なくてもいい。もし、本当にこの誘拐事件を止められるなら……わたしはどうなったって構わない…!)

 スズランはもう一度覚悟を決め、冷えきった身体に力をこめた。

「スズ…っ?」

「……セィシェル…。お願いがあるの。わたし…」

「駄目だっっ!!」

 まだ言い出してもいないのに、頭ごなしに否定されてしまう。

「どうして…!? だって、早くしなきゃライアが…」

「どうしたって駄目なんだよ…! 絶対に何処にも行かせない。それに俺、おまえを〝頼む〟って……あいつに言われたんだ! だからっ」


『───スズランを頼む』

 確かに裂け目の中でライアはそう言った。
 心配をかけまいと笑みを浮かべながら。
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