アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 あの夜。ライアからあんな風に逃げて嫌な思いをさせた。話も聞かず、暖かい手を思い切り振り払ってしまった。それなのに───。
 
「そんなの……そんなの、ずるいよ…」

「どんなにずるいって言われてもいい。俺だって今度こそお前を守りきる…!」

 セィシェルの腕に力がこもる。幼い頃からいつもこの腕がスズランを守ってくれていた。
 不規則で激しい鼓動を刻むセィシェルの心音が耳の奥で響き、次第に乱れた気持ちがおさまってくる。
 
「セィシェル。わたしね、今までみんなに沢山守ってもらったの。わたしドジだし、失敗ばっかりでこれからも周りに迷惑かけちゃうと思う。それでもただ守られてるだけなのはもう嫌なの! わたしに出来ることで何かみんなに返したい…」

「だからって! お前が犠牲になるのはおかしいだろ!!」

「でもわたしに出来ることはもうこれしかないもん」

「そんな事ない! もっと他に出来る事だってある筈…、いや違う! そんな事しなくてもいいんだ…。お前は俺の大切な家族なんだ、頼むから…」

 ───家族。
 セィシェルがそう言ってくれた事が本当に嬉しかった。誰かが、しかも大切な家族が犠牲になる事に賛同出来るわけが無い。
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