アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
(あれ…? この気持ち知ってる……わたしだってすごく嫌だったの。でも、なのに───)

 急に込み上げてきた感情に戸惑う。しかし今はそれよりも切迫した状況だ。スズランは何とかセィシェルを説得するべく思い切り頭を降った。

「…っじゃあ、どうしたらいいの? 事件に巻き込まれた人達やライアはどうなるの…?」

 事実かどうかは知り得ないが、人違いで誘拐された少女たち。更にスズランの身代わりになって裂け目の中に消えてしまったライア。攫われた少女たちは勿論、この国の王子であるライアの身に何かあれば取り返しのつかない事態になる。
 否、既になっているのだ。

「そ、それは…」

「それは俺たちの仕事だぜ。スズランちゃん!」

 突如、頭上から明るい声が降ってくる。
 驚いて見上げると、激しい雨で濡れ鼠の様になっても尚、一点の曇りもない緑の瞳と視線がぶつかる。

「…っジュリアンさん!」

 その瞳は今のスズランにとって一筋の希望に思えた。

「ごめんね、遅くなっちゃって。ちょっとこっちでも問題が起きてさ……で、アーサは? あっ、アーサってのは、その…っあれだ…。スズランちゃんももう知ってると思うけどあいつの本当の…」
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