アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「ジュリアンさんお願い! 早くっ…早くライアの所に…」

「え……何? まさかアーサの奴…」

「ライアがわたしの代わりに……黒い空間の裂け目に…っ」

 スズランの言葉にジュリアンは一瞬表情を固くした。だが直ぐに口元を緩めると軽い口調で説明しだす。

「まじかー!! いやぁさ、俺らで捉えた旧市街の奴らも護送の途中に突然出来た隙間? みたいなのに吸い込まれて消えたんだよ! て事はまた一から作戦練り直さないとか~。まいったな……ああ、でも良かった。アーサの奴、ちゃんとスズランちゃんの事守れたんだな」

「え…?」

 口調とは裏腹に真面目な声で何かを悟ったかの様に瞳を閉じた。

「心配しないでスズランちゃん。あいつなら絶対大丈夫だから! 後の事は俺たちにまかせてよ。あ、でも時間が惜しいな。ねえ、そっちのお兄さん。もし良かったらなんだけどさ……」

 丁度、八百屋の店主が呼んできてくれた警備隊員たちが到着し、更に騒ぎを聞きつけた人々が集まって来る。表通りに面する酒場(バル)の前はものの数分で騒然となった。


 正午前。
 普段通りであれば既に諸々の仕事を終え、小休憩を取る頃だろうか。そろそろ仕込みにも取り掛かる時刻だ。
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