アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 しかし今目の前で繰り広げられている光景をスズランはどこか上の空で眺めていた。

 警備隊は酒場(バル)を襲撃した男たちを留置所へと連行し、更に表通りに集まった群衆に対して安全を確保しつつ帰路に着くよう誘導し終えると迅速に作戦会議を開いた。
 その場となったのがこの酒場(バル)である。
 繋げて大きくした店のテーブルの上にたくさんの書類がひろげられた。その周りに隊員たちが集まり中心で指揮を取っているジュリアンは難しい顔をしながら隊員たちと言葉を交わしている。
 そこへ差し入れと称して人数分の飲み物や簡単に取れる食事を運び入れるユージーン。

「ありがとうございますマスター! 無理言って場所を提供してもらったのに」

「いえ、この位させて下さい…。うちの者が狙われたとは言え、身代わりにアーサ様が拐かしにあったとお聞きしました。我々は…、本当に何とお詫びを申し上げれば…」

 青ざめた顔で心底申し訳ないと膝を折る勢いで頭を下げるユージーンにジュリアンは慌てて言葉を繋げる。

「マスター、それは違います! あいつは一番守りたい人を守った。それだけなんです」

「で、ですが…」

「この事件は俺たち警備隊が必ず解決させますので!」
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