アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 ジュリアンの言葉を聞いてもユージーンの表情が晴れることはなかった。
 そもそもスズランがこの不意を着く様な襲撃にあったという事実と、それを未然に防ぐ事が出来なかった自分自身を責めているのだ。警戒はしているつもりだった。早朝とは言え、もっと気を付けるべきだったのだと。
 暫くの間酒場(バル)を休業してでも〝守るべき存在〟だと言うのに……。


 隊服を纏った隊員たちが店内を忙しなく行き来し、皆険しい顔で談議をしている。日常とはまるで違う店内。それを漠然と眺めているスズランにセィシェルがしびれを切らして声を上げた。

「なあスズ、今俺らに出来る事はねぇよ。だから少し部屋で休んだほうがいい」

「嫌っ…!」

「スズ!?」

 セィシェルの提案を聞き入れず、思い切り首を横に振る。何か少しでも出来る事はないかと足掻きたかった。気持ち的には今すぐにでもこの足でライアを助けに行きたいのだ。

「本当に何も出来ないの? わたしに出来ることなら何でもする! 足でまといになるかもしれないけどわたし、ジュリアンさんたちと一緒に…」

「何言ってんだよ! そんなの絶対に駄目だ!! 何回言えば分かるんだよ。しかも狙われてるのはお前なんだぞ…!?」
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