アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「それでもわたしが行けば…」

「スズランちゃん。それは無理」

 二人の押し問答の仲裁に入ったのはジュリアンだった。

「ジュリアンさん…」

「君はここに残ってあいつの帰りを待ってて欲しいんだ。あいつは俺たちが絶対に助け出すからさ。ね?」

「っ…」

「ほら、一旦部屋に…」

 スズランはもう一度頭を振ると祈る様に両手を組んで強く瞳を閉じた。

「なら、せめてライアが無事に戻って来るまでここにいる…っ! それくらいさせて……お願い」

 心配してくれているのは分かる。自分が如何に無力なのかも痛い程に。しかし何も出来ないのなら少しでも関わっていたかった。
 寒い訳でも無いのに震え出す肩先をセィシェルが宥める様に手を添えてくれた。

「スズランちゃん、マスターも。よく聞いてほしい…、こうなったのは誰のせいでもない。この事件はおかしな点がたくさんあるんだ」

「おかしな点って、そんなのあるのかよ?」

「……そう。詳しくは言えないけどもこれはただの連続誘拐事件なんかじゃあなくて、もっと何か裏があると警備隊(俺たち)は想定してる。で、あいつもそれに気づいて色々調べて計画を立ててたし、実は今日その計画を実行しようとしてたんだけどね」
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