アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「いや、こっちの話。とにかくラインアーサの事なら僕一人で十分だし、鈴蘭は大人しくここで待ってれば?」

「そ、そんな! わたしが無力なのはわかってます…! でも本当にこの事件を終わらせられるなら、、ライアを助ける事ができるならなんだって…」

「煩いよ。一人じゃあ何も出来ない癖に…! そんな事より何で僕のかけた暗示が解けてるんだ? それに、その様子だと記憶も殆ど思い出してるみたいだし」

「っ…!!」

「ねえ、何処まで思い出したの? 君が僕の許婚だって事も?」

 暗闇の中、姿は見えないのに吐息の様なハリの囁き声が耳元にかかる。

「や、やめて…!」

 ───つい先刻、大量に流れ込んできた記憶。
 幼い頃、両親と過した幸せで大切な記憶。母や父に愛されていたのだという証でもある。
 それが内乱によって壊され、引き離されたとしても。どんなに辛い出来事でも二度と忘れたくない大切な記憶だ。
 しかし同時にハリとの関係性がスズランが産まれる前から決められていた許婚だと言う記憶も蘇る。

「あ。じゃあ、ラインアーサが幼い頃に出会った初恋の相手ってやっぱり鈴蘭だったって事か。二人が出会った場所ってもしかして此処?」

「え…!?」
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