アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 ふと壁に目線を移すとライアが贈ってくれた繊細で美しいローブがかけてあり、相変わらずこの部屋に不釣り合いな存在感を放っていた。

(っ…ライア……)

 こんなにも涙が止まらないと言うのに不思議と頭痛も耳鳴りも無く、むしろ思考ははっきりとしている。ただ頭の奥には白い靄がかかっていて、上手く咀嚼出来ない時の様な不快感があった。眠りたいのに眠れないもどかしさにも似ている。
 ベッドの上で膝を抱えて丸くなってからどのくらい経っただろうか。不意に部屋の扉が音を立てた。

「……スズ…? 俺だけど。飯、食えそうか?」

「セィ、シェル…」

 声に出したつもりが喉が張り付いた様な痛みと掠れた空気が唇から漏れただけだった。

「寝てるのか? ……入るからな? 明かりつけるぞ…」

「ぁ…っ」

「な!? お、起きてたんなら返事くらい…って本当に平気か?」

 平気かと聞かれれば全くそうではなかった。
 照明が灯り、初めて自分が真っ暗な部屋に居たのだと知る。突然明るくなったせいか瞳の奥がやけに眩しくて枕を引き寄せ顔を押し付けた。

「馬鹿……そんなに泣くなって。目腫れても知らねぇぞ! 身体も冷えてるし髪も…っ」

「……」
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