アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
「はは、気が利くね。……俺も移動しようかな。席に案内してもらえる? スズラン───」

 そう言ったライアだがスズランの手を取り、自ら酒場(バル)の最奥に向かう。
 広くはないが半個室の造りで通常の席からは死角になっている為、入り口の垂れ幕を下ろせば完全に私的な空間にもなる席だ。店の混雑時などは解放するが普段の使用頻度は低い、しかし稀に要人なども利用する要は予約ありきの席である。

「……ご注文は?」

 ライアが席に着いたので早速注文を取る。すると機嫌良く品書きを開きながら「今日のお勧めは?」と返してきた。上目遣いで見つめられると勝手に心臓が跳ねる。

「おすすめは、えっとね…っきゃぁ!」

 油断していた。品書きを見せられたので真剣に料理を選ぼうとした所、伸びてきた腕に肩を引き寄せられる。少しでも隙を見せると途端に罠にかけられた小動物の如く捕まってしまうのだ。前のめりに転倒しそうになった筈が、強引にライアの膝の上に座らせられていた。

「ここで一緒に選んでよ」

「ここでって…!」

「駄目?」

「だ、駄目じゃ、ないけど」

「なら選んで欲しいな」

 だがそれは到底無理な話だ。既に鼻先が触れ合いそうな程互いの距離が近い。
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