アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~
 癪に障る事を言ったか否か、ハリは突然視線を鋭くしてスズランを睨めつけた。

「は? 僕にそれを聞いてどうする。鈴蘭、君こそ何が目的でラインアーサに近づいたの? 取り入って、虜にでもしてこの国を操るつもり?」

「違う! そんな事…」

「フルール族はその見た目と香りで人を惑わすのが得意じゃあないか。虜にして人を駄目にするのが君たちの生きる手段でしょ」

「そんな事してない!」

「そうかな。じゃあ君からいつも漂ってくるその甘ったるい香り…。それで周りの人間を誘惑してるのは無意識なんだ?」

「誘惑…?」

 周りを誘惑している。ハリにこの言葉を使われたのは二度目だ。フルール族の処世術だと。本当なのだろうか。
 もし本当にそうだとしたら───。

「ああ……、君のその鼻に付く香り、君影草っていう毒花の香りと似てる。可憐で可愛くて甘い香りのする花だよ。知ってる?」

「…っ!」

「いかにも可愛らしく咲く姿、、君とそっくり。……僕。あの花、大嫌いなんだよね」

 そう口にしながらハリはまた一歩前進する。二人の距離はほぼ無くなった。

「こ、来ないで…!」

「どうして? 早くこの首輪外すの、手伝ってよ。鈴蘭」

「嫌!」
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