アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~

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　いつも通り店の仕事をこなし、いつも通りの時間がやって来る。


　念入りに掃除した床。綺麗に磨かれたカップやグラスに、品揃えならば何処の店にも引けを取らないであろう酒や料理の品書き。
　店内は空腹を刺激し食欲を奮い立たす芳香で満たされている。


「今日も完璧！」

　もう間もなく開店の時間。
　店を開けるのはこの店の看板娘であるスズランの仕事だ。この毎日の仕事にもだいぶ慣れてきたと思う。
　頑張れば少し空いた時間にお気に入りの〝秘密の場所〟へと息抜きにだって行ける。
　たまにうっかりな失敗をして怒られる事もあるがスズランはこの店の仕事が大好きだ。

　しかしその日は何かがいつもと違った。
　何やら街全体がやけに騒がしい様な気がする。

「───今日って何かあったっけ？」

　そう言えば午後一番でこの国の国王様が臨時の御触(おふ)れを出したとか。
　仕事に没頭していたせいかその内容をすっかり聞き流していた。まあいいかと、特に気にもせず開店準備を進めていると突然背後から声をかけられた。

「こんにちは」

　見知らぬ声に驚いて振り向くとそこには美しく着飾った美女が立っていた。