アーサ王子の君影草 ~スズランの杞憂に過ぎない愁い事~

　カウンターの奥とは言え、仕事中に言い争いを始めた二人の仲裁に入るスズラン。

「やあね、これだからモテない男は！」

「うるせぇよ、ほっとけ！」

　元々そこまで仲は良くないが、口の悪いセィシェルと物をはっきり言うソニャ。こうなってしまうと二人の口は中々止まらない。

「ねえ、静かにしないとお客さんの迷惑になっちゃう…！」

　流石に心配になり奥の部屋からカウンターを覗くとライアとエリィが並んで座っており、ユージーンが二人の会話に無言で頷いているところだった。

「げ、親父居たのかよ…」

　セィシェルもユージーンに気付き顔を引き攣らせる。ユージーンはそのまま静かに振り向くと人差し指を口に当ててにっこりと微笑んだ。あの笑顔は確実に怒っている顔だ。
　するとエリィが目配せをしてきた。

「あ、エリィさんが呼んでる！　注文(オーダー)かも？」

「じゃあアタシが…」

「いや俺が行く！　スズは大量にある倉庫の空き瓶を裏に出しといてくれ」

「え、うん…」

「何よ、またそうやって小細工して…。後でスズに恨まれても知らないから！」

　先程から今ひとつソニャの言葉が理解出来ない。とりあえずセィシェルに言われた通り倉庫へ向かった。