そのキスで、覚えさせて
Fというたび飛び上がるあたし。
そんなあたしを、遥希は思いっきり睨んだ。
さっきまでの遥希は、キラキラしていてまさしくアイドルで、なんだか遠い人だった。
だけど、今の遥希はいつもの遥希だ。
そう思うと、ようやく落ち着いてきたあたし。
そんなあたしは、蒼さんに聞いていた。
「もしかして、遥希のギターとボーカル、口パクで蒼さんがやっていたんですか?」
聞いてはいけないことだったのかもしれない。
ギターはとにかく、ボーカルは絶対に違うのに。
Fを聴き込んでいるあたしにはすぐ分かった。
あれは蒼さんの歌声ではないことくらい。
「そうしたかったんだけどな。
せめて、ギターだけでも影武者してもらおうと思ったんだけどな」
「でも、遥希完璧にやっちゃったね」
笑う蒼さんに、
「全然完璧じゃねぇよ!
てめぇも色々気付いてるだろ!!」
遥希はやっぱり噛み付いていた。