そのキスで、覚えさせて
結局、あの後遥希とは別れ、いつものように家に帰ることにした。
街を歩くあたしの頭の中は、遥希と泉のことでいっぱいだった。
瀬川さんなんて人のことは、完全に頭から抜け落ちていた。
ふと、広告塔を見る。
そこには笑顔で車に乗る遥希のポスターがあって、思わず目を逸らした。
まるで嵐のような一日だった。
遥希の歌を聴いて、倒れて、遥希が泉に喧嘩を売って。
あたし、明日からどんな顔をして仕事に行けばいいんだろう。
ぼんやり歩いているあたしは、
「美咲ちゃんってば!!」
大きな声で呼ばれて、思わず飛び上がっていた。
慌てて振り向いたあたしの先に、彼は立っていた。
少し前の遥希みたいに、大きな帽子にサングラスをかけている。
怪しさいっぱいだ。
思わず目を見開いていると、彼はサングラスを少しずらした。